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【戦争は女の顔をしていない】感想ネタバレ第1巻まとめ

1984年に発表された『戦争は女の顔をしていない』のコミカライズ版。感想ネタバレまとめです。

戦争は女の顔をしていない 1 (単行本コミックス)

戦争は女の顔をしていない 1 (単行本コミックス)

 

ソ連では第二次世界大戦で100万人をこえる女性が従軍し、看護婦や軍医としてのみならず兵士として武器を手にして戦った。しかし戦後は世間から白い目で見られ、みずからの戦争体験をひた隠しにしなければならなかった――。500人以上の従軍女性から聞き取りをおこない戦争の真実を明らかにした、ノーベル文学賞作家の主著。

目次

第1話 従軍洗濯部隊部長代理の話
第2話 軍医の話
第3話 狙撃兵と上級軍曹と兵長の話
第4話 衛生指導員と看護婦の話
第5話 高射砲兵と通信兵と斥候の話
第6話 一等飛行士と航空隊の話
第7話 書記と機関士と射撃手の話

本編あらすじ

第1話 従軍洗濯部隊部長代理の話

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日本で言えば高校生の年齢の少女が洗濯係として従軍。洗濯機すらない時代。シラミを殺すための特殊な薬剤のせいで爪が抜け、殆どの人が脱腸(ヘルニア)になるほどの重労働だった。

第2話 軍医の話

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道端に女の人が立っている。通り過ぎていく兵隊たちに女の人はお辞儀をして「どうか神様が無事に家に帰らせてくれますように」と呟く。一人一人にお辞儀をしてはそう唱えている。通っていく者たちはみんな涙ぐんでいた。

第3話 狙撃兵と上級軍曹と兵長の話

女性の狙撃兵は最初に人を撃ったときは全身が震え泣き出してしまった。ウクライナを行軍しているときに丸焼けの建物を目にした。近寄っていくと炭の中に人間の骨が見え、焼け焦げた軍服の星印が残っていた。死体はソビエト軍の負傷者か捕虜だった。それからはいくら殺しても哀れみの気持ちは起きなかった。

第4話 衛生指導員と看護婦の話

ある戦闘が夜中に終わった。朝になって雪が降ると、亡くなった人の身体が雪に覆われた。その多くが手を上に上げていた。空の方に…。

第5話 高射砲兵と通信兵と斥候の話

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女性兵士が通った後には赤いシミが砂に残った。男の兵士たちは後ろを歩きながら気づかないふりをする。足元を見ないように…。穿いているズボンは渇ききってガラスのようになる。そこが擦れて傷になる。いつも血の匂いがしていた。

第6話 一等飛行士と航空隊の話

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一級飛行士の女性は戦争前に結婚し、娘を生んだ。戦争が始まり夫は召集され幼い娘との二人での暮らしが始まった。早朝に娘にお粥を与え、家に閉じ込めて出勤。夕方に帰ると娘はお粥だらけになって待っていた。食べたのか食べなかったのか。もう泣きもしなかった。ただ見つめてくるだけだった。夫と同じ大きな目で…。その後、夫は生きて戻らなかった。

第7話 書記と機関士と射撃手の話

カメラマンとして戦争に従軍した女性。撮影したのは戦闘中ではなく、兵士が休息しているところが中心だった。煙草を吸ったり、笑いあったり、褒美を授与されていたりするところを撮影した。連隊旗を掲げるところがカラーだったらとてもきれいだったでしょうにと嘆く。誰かが亡くなると皆から「彼の写真はない?」と頼まれるので、その人が微笑んでいるときの写真を探すのも仕事の内だった。

***感想・評価・考察***

2015年にノーベル文学賞を受賞したスヴェトラーナ・アレクシエーヴィッチのデビュー作にして代表作。間違いなく今年一番の感動作で最優秀漫画候補。小説『永遠の0』を読んだときも衝撃を受けたが、この本を読んだときも様々な感情が溢れた。その感情の名前をなんと呼べばいいのか説明できないが、涙腺が崩壊し心を揺さぶられた。

ノーベル文学賞作品は固い内容というイメージがあったが、本作はコミカライズされているので中学生や小学生でも読みやすい。これがノーベル文学賞。世界に誇る素晴らしい作品は流石としか評価しようがない。戦争を美化するわけでもなく、戦争の悲惨さを訴えているわけでもなく、ただ淡々と綴っているからこそ心に響いてくる。

日本語訳は2016年に岩波書店から発売されているが、あまり書店には出回っていないみたいなので、改めて販売してほしい。戦争体験者に取材しまとめた作者の努力に惜しみない賛辞を贈りたいとともに、監修の速水氏や漫画家の小梅けいと氏も素晴らしい偉業と言える。

戦争を題材にした名作と言えば『はだしのゲン』『特攻の島』『この世界の片隅に』『楽園のゲルニカ』『永遠の0』など数多いが、いずれも太平洋戦争の話であり、本作のソビエト(現ソ連)視点での戦争漫画は新鮮さと共に読めた。

第二次世界大戦の日本の犠牲者は300万人(民間人80万人含め)に対して、ソビエトは軍人1470万人、民間人の死者をいれると2000〜3000万人が死亡したとされている。これは第二次世界大戦における国別犠牲者数で最も多いだけでなく、戦争における人類史上最大の死者数を記録している。

日本では第二次世界大戦と言うと太平洋戦争と原爆のイメージであり、枢軸国の中でも一番激しい犠牲者を出したと思われがちだが、世界史的に見ても犠牲者数を見ても、第二次世界大戦はドイツとソ連の戦争だったと言えることを初めて理解した。

改めて調べてみると戦争の苛烈さが浮かび上がってくる。日本ではアメリカ軍に投降・降伏し捕虜になれば拷問された末に殺されると間違った情報を流布させていたらしいが、独ソ戦に関しては事実だったようで、ドイツが捕らえたソ連軍の捕虜570万人のうち、300万人が死亡したと言われている。有名なアウシュヴィッツ強制収容所でのソ連軍の捕虜の生存率は1%以下だったとの記録もある。

一方で、ドイツ兵捕虜300万人は強制労働に従事させられ、約100万人が死亡したと言われ、史上最大の市街戦とも呼ばれるスターリングラード攻防戦で捕虜になったドイツ兵士10万人も、終戦後まで生き残ったのはわずか6000人(生存率6%)に過ぎなかった。殲滅戦を両国ともに仕掛けた結果、国民総出の皆殺しの戦争となってしまったことを学んだ。日本が太平洋で戦争をしていたときに、ソ連とドイツは太平洋をはるかに凌駕する死闘を繰り広げていた事実に驚くばかりだった。

今年の『全国書店員が選んだおすすめコミック』や『このマンガがすごい!』に名前が挙がるだろう。日本人が教科書で学ぶ歴史とは違う側面を正しく学べる本として学校の図書館に置くことをおススメしたい。日本人は太平洋戦争だけでなく、もっと大きな戦争について学ぶべきであり、その図書として推薦されるべき本だと思います。