2008年から2009年までビッグコミックスピリッツで連載していた『ヴィルトゥス』の最終巻5巻の最終回(最終話)を含めた感想ネタバレまとめ。結末(ラスト)はいかに!?
西暦185年。第17代皇帝・コンモドゥスにより荒廃しつつあった古代ローマ帝国に再び栄光を取り戻す為、現代日本より時を超えて召還された日本人・鳴宮尊!格闘士を目指し訓練中の鳴宮らに訓練所から課された最終試験!それは「死人」と呼ばれる身寄りのない子供達と闘うことだった…!子供らを相手に闘わされるはめに陥った鳴宮に、遙か昔の記憶が蘇り―!?古代ローマ格闘奇譚、第1部堂々完結。
4巻までのあらすじ
栄華を極めし古代ローマ帝国は、自らコロッセウムに立ち闘技に明け暮れる第17代皇帝コンモドゥスの暴力により荒廃しつつあった。ローマの未来を憂えるマルキアは師事するグルバの時を操る秘術を用い、失われしローマ人の至高の魂ヴィルトゥスを抱く男を未来より召喚することを決意。そして選ばれたのは父親殺しの罪で収監されていた鳴宮尊だった。
コロッセウムへとタイムスリップした鳴宮ら日本の囚人達は、ゲルマニア捕虜奴隷『金熊団』といきなり開戦。何とか勝利を収めるもコンモドゥスの命令により死人飼いと称されるガムラに預けられることになる。
訓練所に着いて早々、お互いを殺し合う試練を課された鳴宮達はいきなりほぼ半数の仲間を失ってしまう。そして遂に始まったガムラの島での訓練所生活。だが、いきなり神尾が現地の格闘士クルキスに目をつけられ、いじめの標的にされてしまう。
その神尾を庇った相沢はクルキスと一対一の試合をすることに。クルキスの技術の前に追い込まれた相沢は相手の指を噛みきるという反則技で形勢を逆転するも、その代償としてガムラに右目を奪われてしまう。
一方、首都ローマではマキウスら急進派の元老院議員達がコンモドゥス暗殺に乗り出さんとしていた。ルフルスの妻リュミラの弱みを握り、暗殺の実行犯に仕立て上げたマキウスは遂に作戦を決行する。
本編あらすじ
皇帝コンモドゥス暗殺計画はマキウスの盟友クインティスの裏切りにより失敗する。暗殺実行犯リュミラが髪の中に隠し持っていた毒矢も避けられてしまい、皇帝が最後の晩餐だと言って兵士に持ってこさせたのはリュミラの夫と子供の首だった。マキウスが裏切りの真意を聞くとクインティスの野望はローマ皇帝になることだった。逃げられないと悟ったマキウスは激流の地下水路に身を投げる。
鳴宮尊はマルキアより「ローマに来い」との指示が出される中、神尾心や相沢龍也たちには最終試験が始まる。合格の条件は死人と呼ばれる身寄りのない子供達と立ち合い、明朝日の出まで生き残ること。伊藤は相手が子供であるため反撃も出来ずに一方的に殺されてしまった。最終試験で問われるのは技や力ではなく、非情さ。神尾心たちは戦わないで逃げる。
一方その頃、閉じ込められている鳴宮尊の前には父親である鳴宮凱の亡霊が現れる。鳴宮凱が主催している整流の表向きは、大自然の中の暮らしが大好きな気の合う仲間たちが集まった自然派団体を装っているが、実態は日本各地から女性を拉致し、陵辱する人間牧場だった。鳴宮凱以外の人間は不自然に常時ニコニコしている。
畑と称する地下に隠された場所には妊娠している多数の女性たちが家畜のように管理されており、出産日を収穫予定と書かれている札がぶら下げられている。陵辱を種蒔きと表現する鳴宮凱。
男は去勢して下僕とし、女は孕ませ次々に子供を産ませた。そして男の子だけを育て、弱肉強食の闘いに駆り立て、自らのクローンを造り出そうと試みた。千人以上いる鳴宮凱の子供たちは格闘訓練に明け暮れている。
その中で幼いながらも最も凶暴で父親から期待されていた尊だが、脱走した母親の命をかけた説得によって改心することができた。整流は凶悪な実態がマスコミによって明るみになると凱は逃亡し、整流は解体される。尊は母親の兄のもとで母と一緒に一般社会で暮らすようになる。
一年後、善悪の判断がつき優しさを身に着けた尊。そこに逃亡していた凱が突然ゴスロリの変装姿で現れ、背中に大火傷を負わされる。背中が痛む度に自分のことを思い出しておくれという自己中心的な愛情の言葉を告げると行方をくらます。
その後、10年間は一般社会で幸福に暮らすが、ある日母と伯父が失踪。そこに現れた灰島によって地下格闘イベントに連れて行かれると、そこには母と伯父が凱によって殺害されていた。怒り狂った尊は、父親を殺害してしまう。
雄叫びをあげた尊は閉じ込められていた部屋を脱出して、子供たちのもとへ向かう。鳴宮凱の亡霊に取り込まれた尊はガムラを倒し、宮口と闘う。尊は目潰しをするも数十年前にすでに同じやり方で右目を潰されていた宮口。
父親の名前を言われると頭を抱え出してしまい何故か正気に戻る。自分の母親と同じように子供たちの剣をあえて受ける。何カ所も刺されながら「血の通った人間だ」と抱きしめて、拳を向けることなく子供を制した尊。「鬼の子が仏になりよった」と宮口も復讐を諦める。一件落着かと思われた瞬間、尊は雷の直撃を受けて崖から落ちて消えてしまう。
一か月後、アテナイのコロッセウムで初戦を迎える神尾たち。死ぬかもしれないと恐怖に怯える仲間をよそに自信満々の神尾。尊がいなくなってから猛稽古を積み、人が変わったようになる。千里眼のグルバは何かの儀式をおこなっているうちに姿が見えなくなってしまい、皇帝も不穏な夢を見る…。運命の歯車が再び廻り始めるー。完結。
***感想・評価・考察***
人間の内面を描くのが上手く、画とストーリーに引き込まれる漫画。古代ローマ時代における原始的な暴力描写と鳴宮凱の狂気が面白い。第一部完とはいえ最近の漫画において続編のタイトル名が変更する流れはなんなんでしょうかね…。普通に6巻でいいと思いますが…あまり好きではありません。
鳴宮尊の最後は呆気なさ過ぎて意味不明。主人公らしい活躍もないまま消えてしまいました。面白いからこその最後のオチのつまらなさが引き立ってしまっている。
続編『古代ローマ格闘暗獄譚 SIN 1 』で解消するつもりなのか伏線も全然回収できておらず、よくわからないままだった。最後にグルバが呼び寄せたのはなんなのか。鳴宮尊は死んだのか。暴君コンモドゥスはどうなるのか。続編を合わせて読まないと色々と消化不良が起きる。
鳴宮尊に刺された母親は普通死ぬような刺され方をしているが生きているのが不思議すぎる。どうやって蘇生したのか。母親を助けたのは誰なのか。鳴宮凱が鳴宮尊に殺されたシーンは一コマだけで省略しすぎだと思う。鳴宮凱も16歳で全日本学生柔道選手権を制するほど強いんじゃないのか。父親殺しで服役していることになっているが、父親は犯罪者だから罪に問われないんじゃないのか。
宮口は鳴宮凱によって右目を奪われた過去があるけれども、結局どんな戦いだったのかは不明。宮口も格闘技に詳しいけれども結局何者なのか、何をして刑務所にいたのかもわからない。違和感を言い出したらキリがないけど、そもそも未来から人間を召喚すること自体がファンタジーすぎるが…。逆にコンモドゥスを未来に飛ばせば全部解決するじゃんというツッコミができてしまう。
知名度が低いせいか電子書籍化されておらずコミックでしか読むことが出来ません。そのコミックも一般書店では販売されておらず、ブックオフでも見かけることがないため全巻欲しいならアマゾンなどネット通販で買うしか方法はないです。流通量が少ないと思うけど、いまならまだ手に入るレベル。当然ながらzipやkindleで探しても見つかりません。
信濃川日出雄さんは漫画によって作風が全然違うので一見すると同じ作者だとわからない作品が多い。現在はくらげパンチで連載している『山と食欲と私』が同じ作者だとは長らく気付かなかった。