漫画百科事典

漫画好きによる漫画好きの為の漫画情報サイトです。

【進撃の巨人】感想ネタバレ第12巻まとめ

別冊少年マガジンで連載中の『進撃の巨人』感想ネタバレ第12巻まとめ

進撃の巨人(12) (週刊少年マガジンコミックス)

進撃の巨人(12) (週刊少年マガジンコミックス)

  • 作者:諫山創
  • 発売日: 2013/12/09
  • メディア: Kindle版
 

超大型巨人と鎧の巨人の正体が発覚。エレンとユミルは、彼らに連れ去られてしまう。二人を奪還すべく調査兵団が動き始めるが、エレンとユミルの間に亀裂が走る。巨人の謎を知るユミルが取った行動は…!?

目次

第47話 子供達
第48話 誰か
第49話 突撃
第50話 叫び

本編あらすじ

第47話 子供達

樹上での会話で「獣の巨人」の出現によりライナーたちが故郷へ帰れる算段に目処がついた。獣の巨人は壁内に威力偵察をしに来ている。ライナーとベルトルト、アニは3人で動いているわけではない。「この世界には先がなく」、ここを生き延びても僅かな命しか残っていない。そして「先がない」ことがわかった。

「クリスタは壁教の重要人物だ。つまり俺達の探してる「座標」が…エレン自身でなければ俺達の任務はまだ終わらない。そんな時にクリスタがこっちにいれば今よりずっと探しやすくなるはずだ」

世界からクリスタを救い出すため、ユミルはライナーたちにつく決断をするのでした。ユミルはもうエレンの問いかけには答えず、数時間が経ち手足が回復しています。間もなく日没ですがエレンの両腕は手首の上までしか復元されておらず、ライナーの言葉を信じるなら体組織の修復に手一杯で巨人化できるような状態ではありません。闇雲に巨人化しても勝算が薄いと判断するあたり、超大型巨人を目の前にしている状況にしてはかなり冷静と言えるでしょう。

ベルトルトが懸念するのはユミルの戦闘力。信用して油断すると素早い動きで逆にやられるかもしれない。「実際…あいつは…マルセルを食ったじゃないか」すっかり忘れていると思った謎の回想シーン。幼いライナーとベルトルトがユミルに酷似した巨人に仲間を食われる場面が思い出したように登場です。食われた男の名はマルセル。ライナーをかばって犠牲になりました。あの巨人はやはりユミル本人だったようです。

ベルトルトはユミルに問います。「君は人間に戻る時、誰を食ったか覚えているか?」ユミルはせっかく人間に戻れたのだから自分だけは生きたいと思っただろう、とマルセルを食った後のユミルの心情を推察するライナー。巨人が「人間に戻る」ためには人間を食うことが必要。そしてそのことは基本的に覚えていない。ベルトルトたちも同じだったらしく、また彼が言うには「エレンも覚えてなさそう」。

そしてさらなる事実がユミルの口から語られます。人間に戻る前、ユミルは巨人として壁の外を60年ぐらいさまよっていたと…。「人間に戻る」というのがどういう変化なのか具体的にはわかりません。単なる巨人化能力の行使←→巨人化能力の解除のことではないはずです。エレンが巨人化して人間に戻るたびに誰かを食べているとは思えません。常時巨人で定着してしまった状態から元に戻るような、一生に一度あるかないかの特別なステップに限られるのではないかと思われます。そしてこの場の4人は全員それを経験している。ユミルは60年に渡り巨人として壁外をさまよっていた記憶はあるようです。

彼女はかつて「存在するだけで憎まれ」、「大勢の人々の幸せのために一度死んであげた」ことがあるのですが、それは巨人として壁外をさまよう存在に成り果てることだったのでしょうか?そして今から5年前にマルセルを食って人間に戻り、内地で泥棒をして生活し、そこで耳に挟んだ似たような境遇のクリスタと友だちになりたいと思って訓練兵団へ入り、彼女を庇護してきた…。この筋書きにはまだ肝心な所が抜けています。

そして聞き逃せないのはベルトルトの「エレンも覚えてなさそうだし」。エレンが記憶混濁している場面として思い出せるのは第一話の冒頭と…父・グリシャ=イェーガーが彼に注射を打った時のこと。涙ながらに「皆を守るためにこの力を使いこなさなければならない」とエレンに正体不明の注射。おそらく巨人化能力の源をエレンに施すグリシャ。その後エレンは記憶障害を起こし、そこからグリシャは消息不明。そしてエレンはかつて巨人として誰かを食べているはずなのに、それを覚えてない。

エレンは注射を受けて巨人化し、意識がないままグリシャを食べて人間に戻ったのではないでしょうか?そしてそのプロセスを踏んだ人間だけが、それ以降自分の意志で巨人化能力を使えるようになる…?

ライナーはクリスタの存在がユミルにとっていかに重要かを正しく認識しており、またクリスタ自身の価値も把握しています。彼女は本名をヒストリアといい、貴族レイス家のお家騒動で内地を追われた妾の子でありながら、ウォール教にとっては依然として重要な地位にあり、ニック司祭によれば壁の秘密を知ることも公にすることもできる立場だとされています。

クリスタ本人はそのことを知りませんが。また訓練兵時代もウォール教の関係者がクリスタを監視していたようです。なぜ本家の正当な後継者でなくクリスタなのかはよくわかりませんが、彼女の身柄を押さえておくことで今後の探しものがしやすくなるというのがライナーの目論見です。

もっとも、エレンが彼らの故郷へ帰るための鍵、彼らが探している「座標」そのものであった場合は必要のない話らしいですが。彼らは獣の巨人を見て帰郷が現実性を帯びたことを知り、正体がばれるのも厭わずエレンとユミルを拉致し逃げたことから決定的な鍵を得たのだと思ったのですが、そうではないようです。もしエレンが「座標」でない場合は任務は終わらないとライナーは言っています。

探しものをするためになぜクリスタがいると有利なのか?クリスタ自身は自分の立場について無自覚らしいので、利用すべきは周囲の教団ということになります。ついでにベルトルトがアニに恋していていつもチラ見していたという設定が唐突に明らかになりましたが、この二人はアニが結晶化して地下に収容されたことを知りません。

巨大樹の枝の上から調査兵団の信煙弾が見えます。予想より早く追手がかかったことに焦るライナーとベルトルト。日没まではまだ少し時間がありますが、ぐずぐずしているわけにはいきません。暴れるエレンを縛り上げ猿轡を噛ませてライナーが背負い、ユミルはベルトルトの背に乗り立体機動で巨大樹の間を跳びます。

ユミルはクリスタが自分を助けに追ってくるはずだから捕まえようと主張。分が悪いので次の機会を待つとはねのけるライナーですが、ユミルは執拗に食い下がります。「機会を待つだと!?そりゃ私がお前らの戦士に食われた後か!?ダメだ!信用できない!」

ユミルはライナーたちの目的が「自分を戦士に食わせること」だと考えています。46話の時点でユミルは彼らに連れて行かれたらまず助からないと理解しており、ライナーもそれを否定しませんでしたのでこの考えは当たっている確率が高そうです。その上で、どの道この世界には「先がない」んだからせめてクリスタだけは救ってやりたいだろ?と説得されてライナーの側についたのでした。

先ほどまでの情報から推察するに、食わせる=巨人を人間に戻すためだと思われますが、それがユミルのように巨人化能力を持った人間でなければならないのかは不明です。クリスタが必要なら今行動しろと言い募るユミルに対し、ライナーとベルトルトはリスクを嫌って応戦を拒否します。

しかし、ユミルは半ば自暴自棄に脅しにかかります。樹上なら小回りの効く自分の巨人が一番強い。エレンを奪って調査兵団のところへ行くことだってできる。クリスタと再会するためなら自分もクリスタも死んで結構と歪んだ執着を見せるユミルにライナーとベルトルトは折れ、巨人化したユミルは樹上で調査兵団を待ち受けます。

エルヴィン率いる追跡部隊は巨大樹の森に到達。その時森の奥から巨人の叫び声が響き、コニーやミカサらは巨人化したユミルを発見します。ジャンの問いかけに答えず何かを探すユミル。そして…クリスタを見つけるや飛びかかり、パックリと口で捕らえるとそのまま遠ざかっていきます。森の出口で巨人化するライナー。ユミルと合流しそのまま走って逃げ去ります。

平地を轟音とともに夕日に向かって駆ける鎧の巨人。その後姿を目指し追いすがる騎馬の一団。先頭でそれを率いるのはハンネス。「馬を使って追うぞ!」「絶対に取り返すぞ!」「エレンは…俺の命に代えても…」

第48話 誰か

鎧の巨人がエレンを背負って巨大樹の森から抜け出るのを見るやいなや、エルヴィンは全隊に追撃を指示。森で巨人と交戦中の憲兵団からは見殺しにするのかと罵倒されますが、人類の一大事です。

ジャンやアルミンと共に馬で駆けるミカサは、壁の上でベルトルトとライナーの殺害を躊躇し絶命に至らなかったことを激しく悔いていました。今度はどんな手を使っても必ず殺す。邪魔をするならユミルごと。

口からクリスタを吐き出し握りしめたまま、うなじから自分の頭だけ突出させたユミル。巨人化の練度が高まるとこういうことまでできるようになるのですか。若干涙目でむせています。ユミルはクリスタを懐柔しようとしますが、説明が要領を得ず反発されます。クリスタはライナーとベルトルトがユミルを脅して無理やり協力させているのだと考え、自分はユミルの味方で共に戦うと言います。ベルトルトが最上級に情けない顔で「逆だ…」とつぶやくのが今回の笑いどころ。ユミルに捨て身の脅迫をされてクリスタ誘拐に協力したのは彼らの方でした。

手を離すことはできないとユミル。その理由を彼女はこう言います。「正直に言うと…お前をかっ攫ってきた理由は…私が助かるためなんだ…」「私は昔こいつらの仲間から『巨人の力』を盗んだ。こいつらの力は絶対だ。壁の中にも外にも私の逃げ場はない」「このままじゃ私は殺される。でも…お前をヤツらに差し出すことに協力すれば…」

「私の罪を不問にしてくれるようこいつらが取り合ってくれると言った…お前が壁の秘密を知る壁教の重要人物だからだ」「この世界の状況が変わった時、お前といれば近い将来…保険になると思っていた」

「頼むよヒストリア…私を…!私を助けてくれ!」ユミルは自分がライナーらに付いて行けば助からない(食われる)ことをすでに覚悟しており、一方で「この世界には先がない」ことも承知しています。だからこそクリスタだけはこの世界から救いたいと考えてライナーたちに協力することを決めたはずなので、自分が助かりたいという今回の発言とは明らかに矛盾しています。クリスタを連れ去る理由がクリスタのためではなく、ユミル自身の利益のためだとすることで彼女のお人好しスイッチを入れさせ協力を促している、と考えるのが妥当か?

ついに追撃部隊がライナーに追いつきます。エレンは目を覚ましベルトルトの背で暴れますが、手足を拘束され猿ぐつわを噛まされており決定力はありません。すでに両手の再生は済んでいるようです。ライナーの脚に斬りかかるハンネスですが、速度を犠牲にしてでも硬質化を解かない鎧の巨人に文字通り刃が立ちません。

一応鎧の隙間にアンカーは刺さりますがユミルがご丁寧にワイヤーをはずして放り投げるというような防御策を取っています。今のところ彼女は叩いたり掴んだりして積極的に殺す気はないようです。

そこへ瞬く間に斬り込んでくる一陣の旋風。ミカサが現れる!ユミルの目を一刀で潰し、返す刀でベルトルトへ肉薄しますが後数十センチのところでライナーに阻まれ、態勢を立て直したユミルが邪魔立て。

やはりユミルから排除する!明確な殺意でユミルへ襲いかかるミカサの前に身を挺して飛び出したのはクリスタ。彼女はすでに拘束を解かれていますが、自分の意志でユミルを守るために行動しています。ユミルを殺すなと懇願するクリスタだが、「私が尊重できる命には限りがある」ミカサは本気だとクリスタは悟り、ユミルに抵抗するなと呼びかけます。案外素直に沈黙するユミル。エレンの救出の障害となるならクリスタごと斬り捨てそうなミカサを前にしては退かざるをえません。

ベルトルトはエレンを担いだままライナーの頸動脈のあたりに乗り、ライナーの両手で守られています。そこへ群がる同期。ジャン、ミカサ、コニー、アルミン。思い思いの問いかけを放つ彼ら104期ですが、ライナーは沈黙。ミカサはまたも「躊躇しない」と口にします。ベルトルトは寄ってたかってイジメられた普段おとなしい子がブチ切れる様相そのままに怒鳴り返します。「誰が人なんか殺したいと思うんだ!!」

彼らが単純な快楽殺人者や破滅思想のシンパでないことは明白で何かしらの事情があり、それは壁の中の住人を大量に殺害することと大局的に見て天秤にかけられるようなことであるはず。

「世界に先がない」といった発言から、要するに彼らはこの世界の結末を知っている。近くなんらかの災厄が起こり、人類が全て死滅するような規模の変動があるのかもしれません。この孤独を誰かにわかってほしい、自分の存在を見つけてほしいと涙を流すベルトルト。ユミルもその言葉に感じ入るところがあるようです。巨人側からの攻撃はありませんが、鎧を剥がす手段もなく膠着状態に陥る追撃部隊。このままどこまで逃げるつもりなのか…

と思われたその時、ライナーの行く手正面方向から巨人の群れが出現!先導しているのはエルヴィン団長が率いる部隊です。どうやら鎧の巨人が遅いのをいいことに馬で先行し、巨人を集めて誘導してきたようです。この群れにライナーを襲わせる算段なのか?

第49話 突撃

猿ぐつわを噛ませたエレンを背負うベルトルトを首元へ、クリスタを背負った巨人ユミルを背中へそれぞれ載せ、首を両手でガードしたまま走る鎧の巨人。その後方からは調査兵団の追撃部隊が迫り、行く手からはエルヴィンが誘導してきた巨人の群れ。

鎧の巨人は強烈なタックルで巨人の何体かを弾き飛ばすも、多勢に取り憑かれてスピードを殺され、その動きを止めます。無数の巨人の群れへ吠えるライナーとユミル。巨人と巨人が争う様を見てジャンは地獄かとつぶやきますが、エルヴィン団長は地獄はこれからだと否定します。

彼の口から出た命令は「総員突撃」。エレン奪還を唯一絶対の目的とし、心臓を捧げよ。エレンの力なくして人類の勝利はありえない!調査兵団は巨人との交戦経験に長けているとはいえ、基本は長距離索敵陣形による個別撃破。巨人の群れに集団で突っ込むという自殺じみた場面は想定外で、さすがの団員たちにも動揺が走ります。

先頭を切ってエレンを目指し、馬を駆るミカサ。それに続く同期たち。その先には凄惨な光景が待ち受けているに違いありません…。巨人の群れにしがみつかれ身動きができない鎧の巨人。一旦首元のガードを解き、両手を使って巨人を排除すべく攻撃を開始します。あらわになったベルトルトとエレンの姿を確認するも、巨人たちをかいくぐってそこへ辿り着くのはあまりに絶望的な賭け。

最初に巨人の餌食になったのは…先頭で指揮をとり号令を飛ばしていたエルヴィンでした。巨人に右腕を食われ宙吊りにされながら、彼はなお部隊へ進めと命令します。うなずくアルミン。エルヴィンは己の命を捨てて人類の未来を願った。その願いに応え前進するミカサら調査兵団。巨人の群れに飲まれ次々と肉塊へ姿を変えていく中、巨人の第一陣を突破。

鎧の巨人へ肉薄します。ベルトルトを射程に捉え立体起動で襲いかかるミカサ。間一髪でかわすベルトルト。エレンの状態に気を取られたのか、ミカサは隙をつかれ雑魚巨人の右手に捕まってしまいます。ビキッと骨の砕ける音、悲鳴をあげるミカサ。ジャンの決死の救出で命は取り留めたようですが…。

ライナーは腕を盾にしてベルトルトを守っており、調査兵団はエレン奪還を果たせずにいました。ベルトルトへ声が届く位置に辿り着いたアルミンは頭の中で知恵を巡らせます。力押しでダメなら、他に何か状況を打開する材料はないのか…?

「いいの?二人共…仲間を置き去りにしたまま故郷に帰って…」顔色を変えるベルトルトと鎧の巨人の中のライナー。<自分たち以外にも巨人側の仲間がいると知られている>この事実をライナーとベルトルトが知ったのはこれが初めてです。一瞬に種々の憶測が去来し驚きの表情になったのでしょうが、アルミンの二の句は恐ろしいものでした。

「アニを置いていくの?アニなら今…極北のユトピア区の地下深くで拷問を受けてるよ」嘘の内容をいうアルミン。女型の巨人であるアニはストヘス区で正体を暴かれて巨人化し、エレンと大立ち回りを演じた後で捕獲されるも自らが生み出した結晶の中に閉じこもってしまい、そのまま地下に監禁されています。

このことは当然機密として秘匿されているわけですが、アルミンは独断による越権行為でアニの情報をカードとして切りました。彼は汚い嘘でベルトルトを騙し、動揺を誘うことで突破口を開きます。アルミンが望む結果を手に入れるために捨て去った代償は自らの尊厳。

アニがどんな拷問を受けているか詳しく語ろうとするアルミンに激高したベルトルト。「悪魔の末裔が!!根絶やしにしてやる!!」彼が剣を抜きアルミンへ斬りかかろうとした刹那、注意が逸れた隙に飛び込んできた影。右腕の肘から下を失いながらも応急処置で戦線復帰したエルヴィン団長、その乾坤一擲の剣閃がベルトルトの胸に血しぶきを舞わせます。

驚きと悲しみがないまぜになった表情で、自分を斬った相手を見やるベルトルト。阿修羅の相を見せるエルヴィン。かつて巨大樹の森で女型を捕獲した際、「最善策」で女型を逃してしまった時とは対照的に、自らの命を賭けて本懐を成した団長。

ベルトルトの受けた斬撃は一見してわかるほど浅く皮一枚といったところですが、彼がたすき掛けでおんぶしていたエレンを解放するには十分でした。たすきが切れて滑り落ちるエレン!それを抱きとめるミカサ!

この場面で気になるのは、感情的になったベルトルトの口から出た「悪魔の末裔」という言葉。ベルトルトは現人類の先祖が行った悪魔的な所業を知っているようです。おそらくその結果として生まれたのが、巨人とその巨人に支配されるいびつな世界なのでしょう。彼らはその仕組みを変えるため、元凶を断つために戦っているのだと思われます。

誰にも分かってもらえない孤独に耐えて。どの道この世界には先がない。だからどれだけ人が死のうが、結果として大きな問題ではない」まあベルトルトの頭の中はこんな感じに記号化されてるのではないかと思われるわけです。細部はわかりませんが、雰囲気として。

エレン奪還とともに撤退命令が下され、遠ざかる追撃部隊。為す術なく見送るベルトルトと、いまだ巨人の群れの相手で身動きできないライナーとユミル。巨人ユミルを援護し立体機動で戦うクリスタを横からかっさらっていくコニー。クリスタはユミルの「クリスタを連れて行かないと自分が殺される」というセリフを頭から信じているようですが、なんと同期で最も頭の鈍いコニーにすら、なわけねーだろ!と見透かされてしまいます。

そう、ユミルの目的はクリスタをこの世界から救うこと。しかしクリスタだけ助けるなんて言ったところで彼女がそれに応じるとも思えず、ユミルはクリスタのお人好しを利用して同行を求めたのでした。コニーにだってわかるくらい見え見えの嘘。

調査兵団の追撃部隊が鎧の巨人らから遠ざかり、作戦完了は近いと思われたその時。部隊後方の木陰から巨人が降ってきました。ライナーが悪あがきで巨人を放り投げて進路を妨害しています。その中の一体がミカサとエレンの乗った馬を巻き込み落馬。ミカサは先ほど巨人にビキられた時のダメージが残っていてすぐに立ち上がれず。

そこへズシズシと音を立てて近づく一体の巨人。ミカサとエレンはその巨人の顔に見覚えがありました。5年前、シガンシナでエレンの母・カルラを食ったあの巨人…。身動きができないエレンとミカサ。

第50話 叫び

幼い日の母との思い出…エレンの脳裏には、ケンカの後で彼女に諭された言葉が浮かんでいました。どんなに相手が憎くてもケンカをすればいいってもんじゃない、男ならたまには堪えてミカサを守れと。

後先を考えない直情型のエレンは気に入らない相手にすぐに突っかかっていく子で、それで衝突を起こしミカサを巻き込むのが常でした。街のいじめっ子達にも、ジャンに対しても。今回の奪還戦にしてもその構図はあまり変わっていません。

ユミルにたしなめられるほど浅く感情的な部分でライナーやベルトルトに反発し、結局彼らから情報を引き出すことはほとんどできておらず、身動き取れない状態にされてミカサたちの救助部隊を待つだけ。当然、助けに来る方も命がけです。幼き日の回想をしている間に、母を目の前で食らった仇敵の巨人は落馬して動けないエレンとミカサに襲いかかります。救出にきたのはやはりハンネス。シガンシナが襲われたあの日の再現です。

彼はカルラを置いて逃げたことをずっと悔いていました。子供たちだけでも確実に助ける…その判断は算盤の上では間違っていなかった。だとしても割り切れない。そのトラウマを清算し、過去と決別する。彼の中で止まったままの時計、その針を進める時が訪れたのです。

「本当に!会いたかったぜお前に!」笑みすら浮かべ巨人へと向かうハンネス。ミカサは見た目に大きな外傷はないのですが肋骨が折れているらしく、ハンネスに加勢できず。成長した今のミカサが万全なら雑魚巨人など一刀でしょうが…。エレンは巨人化して自らの手で仇とケリをつける腹積もり。ジャンやアルミンらもそこへ駆けつけようとしますが、鎧の巨人が雑魚巨人の投擲を続けており思うように進めません。

一方、巨人化したユミル。計画がメチャクチャだと憤りますが、彼女は趨勢を読みきれずにいました。もとより彼女にはライナー達のような使命があるわけではなく、クリスタを守りたいという気持ちだけで場当たり的に行動しています。単に友情や親愛というだけでは不自然な気もしますが、今のところそれ以外の原理は見当たりません。

そのためユミルには先を見据えた計画もなく、状況が変われば何食わぬ顔で調査兵団を助けてここを切り抜けるという選択もありえます。今どちらにつくのが最善なのか、その判断ができないまま雑魚巨人からエルヴィンを守るユミル。「今この状況を生き延びることができたとしても…もうじきこの壁の中が地獄になっちまうのは避けようがない…」「ヒストリアをあっち側に送れるのは今しかねぇのに…私の力じゃ守りきれるとは思えねぇ…!」

この世界には先がない…ここ数話でたびたび出てくる表現です。ライナー達やユミルだけはそのことを知っており、だからこそ大局的には人を殺しても別に構わないと思っている。だってどうせ皆死ぬんだから結果は同じでしょ、とでも言わんばかりに。

ライナーとベルトルトにせよアニにせよ、力に溺れた快楽殺人者では決してない。アニはトロスト区で犠牲者たちの亡骸に謝罪し、ライナーは心の均衡が崩れ人格障害を起こし、ベルトルトは誰が人なんか好んで殺すかと激昂しました。

ただ肝心のカタストロフィについてはまだ何も語られておらず、いつどこで何が起こるのか読者には知らされていません。そしてそれを止める術は少なくともライナー達は知らないか、知っていても非現実的なものだと考えているに違いありません。

この世界は終わる。それは構造的に決定されていて変えようがない。ライナーたちの「故郷」(=あっち側)に行けばその災厄を免れることができる。だからライナーとユミルはクリスタを連れて行こうとしている。おそらくその予定された終末という「壁」を越えて、誰も知らないカオスな地平を手に入れることがこの物語の終着点になるのではないかと、筆者は考えています。

クリスタはユミルがなぜ自分を連れて行こうとしたのか、その本心に気づいていました(コニーに言われてですけど)。彼女はコニーの馬から巨人ユミルへ乗り移り、ウトガルド城での約束を改めて確認します。私達は私達のために生きよう、と。眼前の雑魚巨人に立ち向かうユミルとクリスタ、そして成り行きでそれを援護するコニー。

鎧による雑魚巨人のばら撒きは続いています。そのせいで落馬し憔悴した様子のエルヴィン。救出に駆け寄った隊員が巨人の餌食となり、さらに鎧自身もこちらへ向かって来るとあってもはや離脱も困難。また一体、鎧が投げた巨人に今度はジャンが馬ごと巻き込まれ昏倒。アルミンがそれを助けようとしますが、立体機動が使えず二人揃って絶望的な状況に追い込まれてしまう。

そして仇敵に立ち向かったハンネスは、胴体を真っ二つに噛みちぎられていました。あれだけ気合を込めて飛びかかった割に見せ場もなく絶命したハンネス。その光景を目にしてエレンは泣き笑い。手には歯形と血がついています。どうやらこのピンチにも巨人にはなれなかった様子。ライナーが言うとおり、体力が回復していないうちは無理だったのでしょうか…。

ミカサは周囲を見やると静かにエレンに呼びかけ、今の状況には似つかわしくない微笑みを向けます。今まさに巨人に掴みかかられようとしているアルミンとジャン。地面に膝をついたままのエルヴィン、巨人とつかみあいになっているユミル、ハンネスの上半身を飲み込んだ仇の巨人…。それらがあまりにも静かにゆっくりと見え、まるでここだけ時間が止まったかのような錯覚を覚える中、ミカサはエレンを呼び、「伝えたいことがある」

彼女が紡いだのは、共に生きたエレンへの感謝の言葉でした。この上なく満ちたりた優しい笑顔とともに。この子はエレンの命がかかっていると諦めが悪いはずなのですが、今回はさすがにもう無理と悟ったのでしょうか。今初めて、ミカサを守るために自らの意志で立ち上がったエレン。

とはいえミカサは動けず自分も巨人にはなれないので勝算はゼロ。それでも最後の意地を込めて、雄叫びとともに渾身の右ストレートを仇の巨人へ打ち込むエレン。その瞬間、ライナー・ベルトルト・ユミルの頭にビリビリと強烈なショックが!エレンに変化はありません。刹那、エレンの後ろから一体の雑魚巨人が猛然と突進し、仇の巨人に襲いかかります。近くにいた巨人たちも次々とそれに続き、呆気にとられる調査兵団の面々を尻目に仇の巨人をフルボッコにして食い尽くしてしまいました…。驚いたのはユミル。エレンの身に起きたことを理解しているようです。そして、それならこの壁の中にも未来があると。

「最悪だ…よりによって「座標」が…最悪の奴の手に渡っちまった…」「絶対に取り返さねぇと…間違いねえ…断言できる」「この世で一番それを持っちゃいけねぇのはエレン…お前だ」同時にライナーは焦っていました。それは間違いなく「座標」の力によるものだと確信したからです。ふたたび身柄を奪うべく駆け寄ろうとした鎧の巨人を見て激昂するエレン。その叫びに呼応し、またも強いショックがライナーとベルトルトを襲います。

先ほどの再現で雑魚巨人の群れが鎧の巨人へ殺到し、その隙に体勢を立て直し全部隊で撤退を始める調査兵団。あまりの数にライナーが苦戦しベルトルトの身に危険が及ぶのを見ると、ユミルはクリスタにごめんなと言い残し、戦いへ身を投じます。彼らを守るために。引きとめようとするクリスタをコニーが制し、ようやく帰路へ。(鎧の巨人がそれ以上追ってくることはなかった)ウォール・マリア、シガンシナ区の壁上の上で3人が休憩している。「女神様もそんなに悪い気分じゃないね」

※別冊少年マガジンに掲載された時の名前はベリックだったが、単行本ではマルセルに変更されている。